「佐賀弁ラジオ体操」 のナレーション宇都宮直高さんに聞くヒットの理由

*佐賀市プロモーション大使の宇都宮直高さんは、ふだんは東京はじめ全国の舞台で活動するテノール歌手。 東京藝術大学声楽科に在学中に、浅利慶太さん率いるミュージカル劇団「劇団四季」の劇団員になり、『ライオンキング』の主役シンバをつとめました。現在は東京で、演技、歌、ボイストレーニングはもちろん、ことば全体からアプローチするスクールを経営、人に伝わるプレゼンテーションやスピーチをするためのレッスンを行なっています。 ことし、佐賀市プロモーション大使になり、大使の初仕事が、「佐賀弁ラジオ体操」のナレーション。それが意外なヒットに……*

――はじめまして。私は5月に佐賀市のシティプロモーション室の仕事に就いたのですが、宇都宮さんがナレーションを務められた「佐賀弁ラジオ体操第一」が大ヒットなんです。毎日、問い合わせの電話がきますし、数ヶ月たったいまも、日に何件も「佐賀弁ラジオ体操」のCDやDVDをほしいという方たちが市役所にいらっしゃいます。

それは嬉しいですねえ。東京にいても、「佐賀弁ラジオ体操」のことが話題に出るんです。全国区のテレビでよく取り上げられたこともあって、気になってユーチューブやインターネットで検索した方たちから、「この声って……宇都宮さんですよね?」って。

思えば、ことしの3月に佐賀市のプロモーション大使になって最初の仕事が、この「佐賀弁ラジオ体操」でした(笑)。

「佐賀弁ラジオ体操第一」動画

――こんなこと頼まれるとは思っていらっしゃらなかったのでは?

僕のほかに、候補の方がいらしたのかもしれないと思うんですよ。制作の現場の方たちの間では、「このナレーションの役、宇都宮さんに投げてみようか」「でも、宇都宮さんはラジオ体操はやらないと思うよ」「きっと断られるよね~」というような話が事前に交わされたんだろうと……。

それで、シティプロモーション室長の南雲さんから、「こういうお仕事の話があるんですけど、宇都宮さん……まさか、やって下さったり……しないですよね?」という遠まわしな聞き方で。僕が「いや、何でもやりますよ。佐賀のためなら」と返事したら、非常に驚かれました(笑)。

――始めから終わりまで、佐賀弁でずーっと掛け声をかけ続けるんですね。ナレーションは初めてですか?

これほど本格的なナレーションの経験はなかったんですが、やってみたら性(しょう)に合っているというか、本番ではスムーズにできました。

ただ、あのときは、こんなに全国的な広がり方をするとは予測してなかったんですよ。地元の佐賀の方たちが「こんなラジオ体操があるのか」と楽しんで活用されるのかと思っていましたが。

――ご当地言葉によるラジオ体操は他県でも作られているそうです。でも、うける地域とうけない地域がはっきりしていると、全国を行脚(あんぎゃ)している飲料メーカーのベテラン営業の方から聞きました。

佐賀はあたったほうなんですね。やはりラジオ体操という子どもから年配の方までみんなが知っていて、シェアしやすいというのがいいんでしょうね。

うちの母(佐賀市在住)がジムに通ってるんですが、ある日、とつぜん「今日は面白いことをしますよ~。なんだと思いますかぁ? ラジオ体操です!」と言われて、「ま、まさか……」と思ったら、あのラジオ体操が流れ始めた。下を向いたまま、やったらしいですけれどね。

――「これ、うちの息子なんですよ」とは言わない?

うちの母はそういうタイプじゃないので、誰にも気づかれないようにひたすら下を向いてたみたいです。静かに、何事もなく、終わることを祈りながら(笑)。

――ハハハ。宇都宮さんは、ご兄弟は?

僕は次男です。兄がいて、妹が三人いるんです。五人兄弟です。

――それは多いですね。ほかのご兄弟も音楽関係に?

いや、僕だけです。母がピアノを弾くんですが、僕はじつはピアノがすごく嫌いでして……というのも、母にはピアノの生徒さんが何人かいたんですが、僕ら兄弟は子どもの頃、母をピアノに取られているような気がして、好きになれなかったんです。「あなたたち、ちょっと向こうに行ってらっしゃい」とか言われたりして。

――お母様からピアノを習わなかったんですか?

ぜんぜん(笑)。高校のとき、(東京)藝大を受験すると決めてから別に習い始めたくらいです。でも、やってたらよかったですねえ。

――じゃあ、ピアノはなさらず、まっすぐ合唱のほうにいって、それから東京藝大に?

はい、藝大に入ってから、「ふつうは、みんな小さい頃からピアノをやるんですよ」と言われて、「えーっ、知らなかったなあ」って、われながらのんきというか、まあ、異端児ですよね。そのぶん自分が思っていることや、表現力をすべて歌に投入できたと思います。歌うことが好きだというのが僕の音楽の原点です。

――声を使うということでいえば、ラジオ体操のナレーションも宇都宮さんのお好みに合ったのかもしれませんね。ふだん東京におられて、収録時はすぐに佐賀弁に戻りましたか?

東京に出てから19年になります。人生の半分が東京暮らしになりましたが、佐賀弁はまだ大丈夫だと思います。でも、僕がこう思っているだけで、この前、ちょっと話してみようかと思って、佐賀弁でしゃべったら、「ちょっとそれ違わん? 宮崎弁のはいっとーよ」と言われて、「あれーっ、違うのか?」と思いました(笑)。

――ふつうは東京に出たら、標準語に直しますからねぇ。

東京は大学に入った18歳からですね。さらに、二十歳(はたち)のとき、劇団四季に入団しました。劇団は原則・方言禁止なんです。演出家からそこは必ず言われます。

――大阪の人が東京で芝居すると、ものすごく苦労するらしいと聞きます。

僕は学生の頃から、(ミュージカルの)「劇団四季」で浅利慶太さんに指導を受けていたんですが、こんなことがありました。

「靴を脱がしてくれないか?」というせりふがあって、この「靴」のアクセントが東京と関西ではまったく違うんです。関西弁だと「靴」のく・つの「く」が高くなるんです。一回目、浅利先生が、大阪から来た劇団員のせりふを止めた。「そこ、なまってるから、直してくれ」「はい、わかりました」「じゃ、もう一度やるぞ」。二回目、直らない。さっきと同じやり取りが繰り返されて、三回目の「靴を脱がしてくれないか?」……。 

またもや、く・つのアクセントが直らなかった瞬間に、先生が「もう出て行け」と言われて、その劇団員はロッカーから私物を出して、劇団を去りました。

――クビになった。劇団四季は歴史のある大きな劇団ですが、昔ならいざしらず、宇都宮さんたちのような30代の方たちの年代でも、そんなに厳しいんですか?

いやぁ、もう、厳しいですよ。ストイックというか……アクセント一つとっても、アーティストとして、プロとして、ちゃんとやれと。舞台俳優の立場からすると、なまりがあるなら、あらかじめ自分で直した上でのぞむのが、稽古であるという考え方です。

僕もまだ直らない言葉はありますよ。「昼」のアクセントがおかしいんです。お昼と「お」をつけるとできるんですが、昼だけになるとあやしくなる。

――私は30年、東京にいましたが、その先の段階としては、自分でも意識していないことばを、東京の人に聞き返されるんです。くつ、ひる、はし、みたいな二音節の言葉なんですが、地域差が出やすいのか、何が違うのか本人は意識すらしてないくらいのこと。それが最後まで残る、それこそが出身地のなまりではないかと思います。

なるほど。僕もどうしても直らないんですよねえ。

――でも、ラジオ体操の収録のとき、佐賀弁がぱっと言えたというのは、宇都宮さんの体のどこかに、まだあったんですね。

わりとスムーズに入れたというか、佐賀弁モードになりました。台本も一応あるんですが、尺(しゃく・決められた時間)の中でせりふをすべて言わなければならないので、ラジオ体操のナレーションで要求されているものは、かなり高度なんですよ(笑)。

シティプロモーション室がそこまで考えて僕を指名したのかどうかはわかりませんが、あらかじめ決められた尺の中でテンポよく喋る、というのはミュージカルと一緒でしょう? 

――そうですね(笑)。自分に与えられた間(ま)で歌ったりせりふを言う。

そうしてテンポよく喋っていって、しかも感情豊かにというところは自分でも適任だったかなと思います。やってみて面白かったです。

――空前の大ヒットになった「佐賀弁ラジオ体操」における宇都宮さんの声の功績は大きいですよ。あれは聞いてて、ものすごく気分がよくなります。

あの最後がいいでしょう? 「今日も気張らんばばいっ」です(笑)。

(インタビュー・文 樋渡優子)

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