小林麻央さんの乳がん報道が注目を集めていますが、今は12人に1人が乳がんになるともいわれています。
乳がんは女性なら誰でもなる可能性のある、身近な病気です。
2013年、私にも「乳がんの疑い」がありました。
これは、そんな私が経験した54日間の記録です。
■血がドビャッと出る検査と、病室に不似合いなAKBの歌
2月8日(金)の午後、緊張しながら「マンモトーム」の検査を受けに病院へ。
金曜日は通常の診察はお休みのようで、いつもは混み合っている待合室には患者さんが1人しかいなかった。
がらんとした病院の中で、看護師さんだけが忙しそうに行ったり来たりしていた。
すぐに名前を呼ばれ、上の服だけ検査着に着替える。
そこで用意してきたCDを看護師さんに渡した。
検査は20分ほどで、そのあと止血のために1時間ほど休憩が必要だと聞いていた。
いろいろ悩んだ結果、ただただ元気が出るようにとAKB48の音楽を集めることにした。検査後の休憩中にかけてもらえるものだと思っていたので、その時の自分の精神状態を想像しながら、バラードはできるだけ避けて明るめの曲をちょうど1時間で収まるよう選曲した。
しかし。
検査室に入ると、そこでAKBの音楽が流れているではないか!
しかも、わりと大ボリュームで。
カチュ~シャ~、はずしな~がら~♪
「じゃ、ここに寝てください」
しかし、先生も看護師さんもいたって普通だ。
私だけ、
「検査中に流すんだったんだ!!! どうしよう、浮かれた曲ばっかりだし、うるさいし、もっと先生の集中力が高まるようなものにすれば良かったよ!!」
と、ひとりそわそわしていた。
検査台に寝転ぶと、消毒液を塗られて麻酔を2本。
1本目を打ってすぐに効き始めたからか、「痛くないように、奥の方にも打ちますね~」と2本目を打たれたときは、ほとんど痛みを感じなかった。
「では、始めます」と先生。
「え、もうですか?麻酔はもう効いてるんですか?」と焦る私。
「大丈夫ですよ。もう痛みは感じないはずです」
と言いながら、先生がプラスチック(に見えた)のドリルのようなものを取り出した。
「冗談か!?」と思わず突っ込みたくなったが、もちろんそんな余裕はない。
ドドドドドとドリルを動かし始め、ついに私の胸に穴が開けられた。
体に鈍い振動は感じたが、痛みはほとんどなかった。
時々、引っ張られるような痛みが奥の方にあって「いてっ」と声を上げてみた。
痛みよりも、感覚のないところで自分の体に穴が開けられている、ということがとにかく不安で、気持ち悪かった。
消毒液なのか、自分の血液なのか、脇の下を生暖かい液体が何度も伝っていった。
ドドドドドドド
フラインゲット~♪ 僕は一足さき~に~♪
5分くらい経って、一旦終了。
「今取った中にきちんと目当ての細胞があるかどうか見てきますので、ちょっと待っててくださいね」
と、ここで先生がまさかの一時退場。
胸の傷を押さえてくれている看護師さんと二人きりで先生を待つことになった。
たぶん、その時間は1~2分だったと思うけど、ものすごく長く感じた。
大好きだ、君が大好きだ、僕は全力で走る~♪
狭い検査室で、AKBの元気な歌声が響く。
この時だけは、CDをAKBにして良かった、と心から思った。
「もう1回だけ、取りましょう」
と、先生が戻ってきて一言。
「はい」とうなずきながら、ただひたすら耐えるしかなかった。
痛みは少ないものの、極限の緊張状態と気持ち悪さで、時間が伸びれば伸びるほど精神も体力も消耗していく。
でも、私がここでくじけてしまって、後日、再検査になることだけは避けたかった。
ただその一心で目をつぶって耐えた。
胸には布をかぶせているので自分では見えないのだが、それでも顔を横に向けていると、10秒に一回くらい、先生と看護師が「大丈夫ですか?」と聞いてくる。
「大丈夫だから、早く終わってくれ」とはもちろん言えず、「大丈夫です」と返し続けた。
「AKBだってめっちゃ大変だけど頑張ってるし!!」
と、わけのわからない励ましをしながら、何とか検査を乗り切った。
あと5分、検査が長引いていたら、私は気を失っていたかもしれない。
止血用のガーゼを貼られ、包帯で胸をぐるぐる巻かれて休憩室へ。
不安が一気に溶けて、涙が一筋、頬を流れた。
でも、終わってみれば、解放感もあってか、わりと元気で、いざとなればタクシーで帰る準備もしていたが、普通に電車で帰ることができた。
麻酔が切れた後の痛みも心配するほどではなかった。
当日は入浴、飲酒禁止。運動と湯船に浸かるのは2~3日禁止(シャワーは2日目からOK)。
制限はそれくらいで、仕事も普通にできたし、日常生活におけるダメージが予想以上に少なかったのはありがたかった。
※この記事は、乳がん検査を受けたことにより不安や葛藤を自身で体験したライターの体験記であり、乳がんをなかなか身近に感じることのない、またはライターと同じような不安を経験している方への啓蒙の一助となることを目的として掲載しています。