“落第種”巨峰の底力。巨峰ワインを訪問

福岡県久留米市田主丸は耳納連山のふもと、様々な果樹の産地として有名で、ゆったりと豊かな農業地帯が広がります。 そんな田主丸はまた、日本における巨峰栽培開植の地、観光巨峰園発祥の地でもありました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、一部店舗・施設で営業時間の変更・休業、並びに一部イベントが延期・中止になっている場合があります。おでかけの際は事前に最新情報をご確認ください。

黒味を帯びた輝く紫色、大きな実に果汁たっぷりの巨峰はメロンやイチゴと並んで果物の王様ですよね。

そんな巨峰。
驚くことに昭和初期には「落第種」と農家に人気がなかったそう。
樹勢が強く、きちんとコントロールしないと実が実らない上、そのコントロールには熟練の技術が必要で難しかった点。
せっかく美味しく実っても粒が大きく重いため出荷するまでに枝と離れて、粒だけになってしまう点。
そういったことが理由でした。
 
巨峰ワインの母体は創業300年の「若竹屋酒造」という造り酒屋です。
若竹屋酒造の12代目社長の林田博行さんは田主丸における巨峰開植の支援に尽力し「落第種」巨峰の栽培を躊躇する地元の農家さんたちに「巨峰は立派な葡萄やけん、やってみらんね!もし売れんかったらうちが買い取って酒にするけん!!」と後押し。
現在は改良が進み、玉落ちという点は改善されましたが、やはり栽培が難しい巨峰は他のワイン専用種に比べると熟練の技術者が必要ですし、どうしてもコストが高額になりワイン1本の中での原料費の負担が大きい。
本当はカベルネやシャルドネに植え替えたほうが楽なのかもしれない…。
でも、巨峰を生み出し、巨峰を支え、農家と二人三脚でやってきた歴史と土台があっての巨峰ワイン。
珍しいから巨峰でワイン。なんとなくそこにあったから巨峰…なのではなく。
巨峰ありきのワイナリーなのです。

さて、ワイナリーの横にある石造りの立派な貯蔵庫では、静かにワインが熟成していますが、他のワイナリーとは違う点が…。
…樽が見当たりません。

ワインはほとんど一升瓶で貯蔵されていて、しかも9割が白ワインです。
巨峰からつくるワインはデリケートで樽で熟成すると樽の風味に負けてしまうそう。
巨峰は色が出にくく、赤ワインはフレッシュさを大切につくっているそう。熟成に向くのは白で、一番古いものは1973年。
一升瓶での熟成は1本1本熟成の状態が違うそうで、リコルクや出荷の際1本ずつテイスティング、味を確かめてから720mlの瓶に入れ替えて出荷しているとのことです。
 
赤ではなく白を熟成。
樽ではなく一升瓶で熟成。
すごく面白いな…いったいどんなワインなんだろう?
と、ショップでテイスティングさせていただきました。

赤はなるほど、確かに鮮やかで軽い色合い。味わいはフレッシュで、活き活きとした果実味があります。
白は少し色がついていて淡い色合い。柔らかい渋みがあって熟成向きだというのがわかります。素朴な果実味、新鮮な酸と優しい甘み、巨峰の風味。
ショップには実に様々の果実からのワインが並んでいて、ワインコンクールで一位を受賞したブルーベリーワインや、あまおうワインと共に柿ワインや、季節によってはほのかに甘い桃のワインもあるそう。

8月上旬、酸のしっかりした段階で収穫され途中発酵を止めてつくられるブラッシュワインの「ワインの赤ちゃん」もいただきました。
ただの早摘みの甘口を想像して飲むとその余韻の長さや複雑さ、ほのかなタンニンに驚かされます。赤ちゃんといえども、きちんと食事に合わせていただくことができるフードライクな側面をもつ赤ちゃんでした。
 
さて、そんな巨峰ワインは2012年7月、自社畑を土砂崩れで失い、作業所にも大きな被害をうけています。
それまでは自社畑と買い付けの葡萄を半々でワイン造りをしていたものの、現在は9割買い付けの葡萄となっています。
 
おりしも、大阪で醸造工学を学びワイナリーの創業者でもある13代目の林田伝兵衛さんが癌で亡くなったのがその年の冬(2012年1月)。
「被害にあった畑を眼にされなくて幸いでしたね」というと
担当してくださったスタッフの焼山さん
「いいえ。むしろ見てほしかった。障害を越えることや難しい問題を解決して乗り越えることを楽しむ人だったので、損害をみたら癌なんか消えていたかも…」
 
ワイン醸造を学んだフランスでも、言葉は万全でなくても多くのことを学びフランスの友人達から愛されたという伝兵衛さん。
苦労を楽しむ
難を超えることを楽しむ
なんて素敵な人なんでしょう
 
土砂崩れにあった葡萄畑は現在、再び巨峰が植えられ育っています。
せっかく一からやり直すなら新しい挑戦をしてみよう!と、熟練の技術を要する棚つくりでなく短梢仕立てに植えているそう。
博行さん、伝兵衛さんの気質は脈々とワイナリー全体に受け継がれていると感じました。
 
帰りに一口1988年ヴィンテージの巨峰白ドライをいただきました

こちらも樽ではなく小さな瓶での熟成。
貯蔵庫で保管され数年前にテイスティングして「あぁもうだめかなぁ…」という時期があったそうですが、そこから毎年ぐんぐん良くなったそう。
輝く金色…。
香りは熟成したシャンパーニュのようなナッツ香、上質のシェリー香。イースト香にやさしいスパイス、かすかに蜂蜜…複雑で柔らかいかおりが広がります。
味わいは驚くほどスムース。よけいなタンニンや酸がひっかかることなく口中にひろがり、あまりの力強さ、しなやかさに思わず涙がでてしまいました。
 
「落第種」巨峰の底力。
博行さん、伝兵衛さんの残したかった、巨峰ワインの真髄。
 
わたくしごとで恐縮ですが、ソムリエになるきっかけを掴んだブルゴーニュでの、あるワインとの出会いを思い出しました。
 
帰りに2009年の白ワインを購入しました。
石造りの貯蔵施設と同じような熟成ができるとは思えませんが、小さな自宅のセラーで20年ほど寝かせてみようと思います。
 

※掲載されている情報は、2020年01月時点の情報です。プラン内容や価格など、情報が変更される可能性がありますので、必ず事前にお調べください。
2019年10月1日からの消費税増税に伴い、表記価格が実際と異なる場合がありますので、そちらも併せて事前にお調べください。

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