福岡発 着物をめぐるイノベーション! キモノヤーンが紡ぐ伝統と想い

日本中で使われなくなった着物を集めて、美しい糸「キモノヤーン」に再生。今、ハンドメイドの素材として、注目を浴びはじめています。この新規事業をスタートした藤枝瀬里子さんのヤーン作りにトライした縫製会社「神力縫製」もまた着物で新しい試みに挑戦!今回は、福岡のタウン情報誌の編集者として活躍していた、帆足千恵さんが、今年4月福岡・大橋にオープンしたショールームで、熱意あふれるチャレンジについて話をおききしてきました。
この記事の目次
フクリパ

キモノヤーンは趣味から生じた新規事業構想

フクリパ:この一巻で小物作りやアクセサリに使えるキモノヤーン

もともとは地域活性化の事業を手がける福岡の企業で働いていた藤枝瀬里子さん。ツーリズムや観光事業の分野で、私も福岡や長崎で一緒に仕事をしたこともありました。

そうそう、「バルウォーク福岡」の創設スタートにも大きく関わっていました。おっとりした口調から次々と飛び出す鋭い指摘やユニークなアイデアにいつも感心していた矢先。

「年齢を重ねるごとに自分に合う下着がなくなっていき、それを一緒に作ってくれる企業を探して、そこの福岡支部を作って働くつもりです」と退職。

久しぶりに会った昨年の初夏に、今回の「キモノヤーン」事業をきいてびっくり。今回はじっくりその経緯をききました。

藤枝:
「2016年に前職を辞めて、2年間はフリーランスというか自分の気が向いた仕事ばかりしていました。一緒に下着を作ってくれそうな会社一覧を作成して、片っ端から企画書をFAXしたり、面接に行ったり。

そんな中、石川県金沢に本社がある三和物産株式会社という葬祭商品の製造販売会社が興味を持ってくれたのです。しかし、いきなり事業にまったく関係ない女性用下着という話は突飛すぎて。

折しも、2018年4月から、福岡にできた「事業構想大学院大学」の一期生でしたので、授業の課題をいろいろ考えていました。

『新しいイノベーションは何かと何かのかけあわせでできる』ということを考えていたら、愛媛の実家でやっていた自分の趣味がヒントになりました。」

フクリパ:裂き編みとヤーンが調和した作家・河村美琴さんの作品

「裂き編みをしようと思って、とにかくひたすら布を裂いていたのです。それを見た母が『おばあちゃんの着物がいっぱいあるから、新しい布を裂かないで、それを裂いたらいいやん』って。

祖母は着道楽だったのでしょう。すてきな着物がいっぱい箪笥に眠っていました。(実際に着ようと思うと、小柄な祖母の着物は着丈も腕も私にとっては寸足らずでしたが)

日本でもオランダで生まれた「Hoooked Zpagetti」社のTシャツやカットソーを作った「Tシャツヤーン」がハンドメイド素材として人気を博していたころ。

『着物からヤーン(糸)を作ってみよう』と思い立ちました。

2018年5月に、大学に「キモノ☓ヤーン(糸)」を提出したら、『おもしろいね』との高評価。会社にも提案して、2018年10月にキモノヤーンを製造・販売する会社『株式会社リクラ』を立ち上げることになりました。 

着ることができなくなった着物を集めて、『捨てるものを素敵に変身させる』アップサイクルをミッションにスタートしました。」 

フクリパ:この世に1個ずつしかないキモノヤーン

100年の歴史を持つ縫製工場のオーナーが一緒にトライ

フクリパ:いまだ試行錯誤の連続だというキモノヤーン作り 。神力縫製の神力さん(左)と藤枝さん(右)

ものすごいスピードで、事業化にこぎつけた感があるキモノヤーン。しかし、実際には商品化には数々のハードルと試行錯誤があり、それは今も続いています。

藤枝:
「実は会社を設立する2018年6月頃に、ヤーンにするには“バイアステープ”の手法かなと思って、縫製工場をリスト化して、片っ端から声をかけていきました。

もう何社かわからないくらい依頼したなかで、神力縫製さんが初めてトライしてくれました。一点ずつの手作業になり、量産するのが難しそうと思い、機械化することも検討しました。

しかし、ひとつのヤーンを作るのに、反物でも機械で裂くと相当ロスが生じ、実際の着物からだとなおさら出るのです。それだけロスが生じるのは、本来のアップサイクルのコンセプトから考えると本末転倒ですよね。

他の企業はトライしてくれないなか、神力縫製さんは、根気強く取り組んでいただいたのです。」

フクリパ:反物や着物からヤーンを作るので、元の着物を思い浮かべてしまう

確かに、、布状の反物でも織や生地によって裂き方の難度も違うだろうし、着物だと縫い合わされているのでそれを手作業でほどくところから始めないといけないのは素人の私でもよくわかる。

手間も技術も要するこのアイデアの商品化を最初はどう思ったのだろうか。100年以上の歴史を持つ神力縫製の代表・神力瑛二郎さんは苦労をいともしない感じで答えてくれた。


神力:
「商品としては面白いものができると、瞬間的に話の膨らみを感じました。次に、どうやったら事業化できるのだろう。買ってくれる人がどれだけいるのか、需要と供給のバランスがとれるのかと考えましたね。

ヤーンを作る技術に関しては、静岡県浜松市の車のドレスアップツールを作る会社から 車の革張りのスワッチ(生地見本のような形状)を作る仕事をうけていたし、、うちは縫いもできるから自信はありました。

集まった着物はまず洗濯から。防虫剤の樟脳(しょうのう)の匂いが強く残っているものが多くて、洗濯の時にものすごい匂いがします。

裁断の加工自体は機械でやっていますが、まだロスが出たり、元の着物の生地を活かしてヤーンにする工夫などいろいろトライしています。

ちょうどコロナ禍の期間は、当社の中でのクオリティを高めていく追い込み期間となりました。だいぶ量産することはできましたが、まだまだ試行錯誤の毎日ですね。」

フクリパ:神力さんが手にしているのがスワッチ。この技術がヤーンに活かされる

神力縫製の着物をめぐるイノベーション

100年続く縫製工場の4代目か5代目」という神力さん自身も、着物によるイノベーションを起こしている。

高校、大学と工学を学び、関西で半導体事業に従事していた神力さんは、「実物が手にとれるモノづくりがしたい」と神力縫製で、長崎のはいからさんとタイアップした「かんたん着物」を創作。

一人で、しかも数分で着物を着ることができるという画期的なものだったのです。

神力:
「縫製工場はアパレルメーカーの請負など、依頼を受けているものを作ることが多かったんですね。自分たちは、それをどう打破できるか考え、いろんなものにチャレンジしようと。

6年ほど前から手がけている「かんたん着物」は、着物という日本文化をどう残していくか考えたときに『洋服は着やすいから着ている。着物を着ることのハードルが下がれば、洋服感覚で着ることができればもっと着る人が増える』と考えました。」

フクリパ:自分ひとりで着付けができる「かんたん着物」

「仕立て衿がついているので、肌着も自分のものでいいし、おはしおりを着丈にあわせて作っているので左右のフックをひっかけるだけ。帯も簡単にできます。

将来的には動画をアップして、それをみながら自分たちで着付けを体験できるようにしていきます。浴衣も夏着物ということで、品のあるものを作っていく予定です。

多彩な商品の中から選ぶこともできますし、オリジナルを作ることも可能。お下がりや既存の着物を活用することもできるようにしています。

特許がとれるのは確実で、その枠を広げていくために交渉しています。」

フクリパ:おはしおりが最初から作られているので、簡単に着付けることができる

福岡市内で広げるために、福岡市に相談したところ、博多駅周辺の『博多旧市街』で国内外の観光客向けのツールとして活用してもらおうと企画しています。コロナの影響でイベントは延期になりましたが、いろいろと考えています。

福岡から世界へ!着物文化の広がりを目指して

トライ&エラーを繰り返しながらも、順調に進化しているように思えるお二人の着物をめぐるイノベーション。現在の課題と今後の抱負をききました。

藤枝:
「一点物なので、一般の手芸店では取扱いが難しいのです。だから、どうやって認知度をあげて、販路を広げていくかが当面の課題。

2018年からは、香川県の直島や福岡でヤーンを使ったワークショップや福岡市の蔦屋書店で展示会をするなどしてがんばっています。」

フクリパ:香川県・直島での夏風鈴を使ったワークショップの模様

「今は『minne』で販売しており、このコロナの巣ごもり消費で増えましたが、事業計画的にはまだまだ。今年6月には日本ヴォーグ社からキットも発売される予定で、裂き編みとキモノヤーンとセット、動画もついて販売されます。

今は布花のキット(1,100円)がプチブレイクしています。Tシャツにつける小物を作ったり、アクセサリーの一部にしてもらえたらという気持ちでリーズナブルな価格で販売しています。」

フクリパ:右下にあるのが布花。針とハサミと糸があれば簡単にできる

「キモノヤーンは糸=素材なので、どんな使い方もできます。海外の方にこれがきっかけになって、新しい着物の魅力、日本の文化を伝えていきたいと思っています。」

フクリパ:この他にもいろんな趣のキモノヤーンがあふれています

神力:
「2020年2月に天神、博多の宿泊施設などに『かんたん着物』を配送や接点をもっていく場所として福岡の南の副都心・大橋駅の近くにこのショールームを出しました。3月にキモノヤーンと連携できるよう事務所兼コーナーも作って、一緒にやっていきたいと思っています。

モノを作ることは小さな試作から始まります。着物は今欲しいというユーザーが少ない状況ですが、決して諦めません。

着物文化が広がっていくと、小物や装飾物などに目が向いてきて、キモノヤーンが活きてくると思います。東京、大阪ではなくて福岡でも世界に攻めることができる商品を発信していきたいですね。」

フクリパ:かんたん着物を実際に選んでみることができるショールーム

コロナでおうち時間を過ごす間に、手仕事や自分で作ることの楽しさに気づいた人も多いのではないでしょうか。

「サステイナブル(持続可能)」で「エコロジカル」なキモノヤーン、日常に着物を着るきっかけになりそうな「かんたん着物」とも、オンラインサイトから購入できます。

もし、可能な状況であれば、活気あふれる大橋の街のショールームを訪ねてみませんか。福岡から広がる「着物イノベーション」を推進するお二人に直に触れるといっそうその奥深い魅力を体感できますよ。




文=帆足 千恵

※掲載されている情報は、2020年12月時点の情報です。プラン内容や価格など、情報が変更される可能性がありますので、必ず事前にお調べください。
2019年10月1日からの消費税増税に伴い、表記価格が実際と異なる場合がありますので、そちらも併せて事前にお調べください。

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