祖母が語った不思議な話・その弐拾弐(にじゅうに)「オシエテ」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。この話は弐拾壱話「黄八丈の間」の前日譚です。△旅館で祖母が遭遇した怪異について、ポツポツと話してくれた断片を繋いでみました。
チョコ太郎

イラスト:チョコ太郎

 昭和十年代、祖母は三、四歳になる息子を連れての里帰りの途中、K県の小島を訪れた。
 日ごろの疲れを癒やすのが目的だった。
 子どもが小さかったため、港からほど近い△旅館を選んだ。
 
 モダンな二階建てで、その辺りでは目をひく旅館だった。
 壁に「コトリノヤド」といたずら書きがあるのも微笑ましかった。

チョコ太郎

 宿泊手続きを済ませると、一階の奥の「波兎の間」に通された。
 部屋はとても綺麗で、夕食も堪能した。
 お風呂を済ませ部屋に戻ると布団が敷いてあり、息子はすぐに寝付いてしまった。

 祖母も横になりうとうとし始めた頃、上の部屋でかすかに床をひっかく音が聞こえた。
 耳をすましてみたが、それからは何も聞こえない。気のせいか…と再び眠りについた。

 一時間くらいして浅い眠りを嫌な夢で起こされた祖母は、隣りで寝ていた息子を見た。
 いない!

 あわてて灯りをつけると、息子は廊下に出る扉の前に立っている。

チョコ太郎

 「どうしたの? お手洗い?」と聞くと
 「おばちゃんが来たよ」
 「どんなおばちゃん? お宿の人?」
 「しらないひと。あかいひと。『ボウヤノナマエオシエテ』っていうんだ」

 祖母は総毛立った。

 「名前は教えた?」
 「ねむいからいわなかった」

 そう答えると息子は崩れるように倒れ、眠ってしまった。
 祖母は息子を抱きしめたまま朝まで一睡もしなかった。

チョコ太郎

 翌朝、宿を出ようと清算しているうちに息子が姿を消した。
 宿の人にも手伝ってもらい探したが一階にはいなかった。

 二階に上がり一部屋ずつ探していくと、一番奥の「黄八丈の間」から息子の声がした。
 ホッとしながら扉を開けようとした瞬間、女の声が聞こえた。

 「ナマエオシエテ」
 「なまえはね…」

 「駄目!」

 祖母はそう叫びながら扉を開けると、部屋の中に息子だけがポツンと座っている。
 部屋の中は壁といわず襖(ふすま)といわず、子どもの落書きで埋め尽くされていた。

チョコ太郎

 息子の手をつかむと後も見ずに飛び出し、逃げるように宿を出た祖母はすぐに島を離れた。
 実家に着くまで誰かがついてきているような気がしてならなかったそうだ。

 「子獲りの宿…」話の最後に祖母がポツリとつぶやいた。

あわせて読む
祖母が語った不思議な話・その弐拾壱(にじゅういち)「黄八丈の間」
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