祖母が語った不思議な話・その拾捌(じゅうはち)「新しい宿」

 私が小さい頃、明治生まれの祖母がちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。少しずつアップしていきます。
チョコ太郎

イラスト:チョコ太郎

 祖母が8歳の秋の終わり、家族でY県に旅行をした。
 蒸気機関車に乗り、駅弁を食べ、到着まで大いに楽しんだ。

 駅に着き老舗の温泉宿を訪ねるとすでに満室。
 あちこち訪ねたあげく、すこし離れた新しい旅館に泊まることになった。

 そこは檜の香りのする、建てられて間もない宿なのに他に客はいなかった。
 「こんなにきれいな宿なのになあ…」祖母は少し不思議に思った。

チョコ太郎

 夕食は山海の幸をふんだんに使った豪華なもので家族みんな大満足だった。
 お腹がふくれた祖母はいつしか眠ってしまった。
 「みんなもうお風呂に入ったよ。あんたも入っておいで」と母に起こされたのは10時くらいだった。

 大浴場には誰もおらず、とても気持ちが良かった。
 お湯を満喫し部屋に帰ろうとすると露天風呂の方で子どもたちの笑い声がする。
 「やっぱり他にも泊まってたんだ!」納得しながら部屋に戻った。

チョコ太郎

 さあ眠ろうという時、ぼそぼそと話す女の人の声や子どもの泣き声が聞こえてきた。

 「お母さん、お母さん!変な声が聞こえるよ」と祖母が言うと
 「あんたもかい?ちょっと見てくるね」と祖母の母は部屋を出て行った。

 しばらくして母が帰ってきた。
 「どうだった?」そう聞くと「寝なさい」とだけ言い、布団に入ると祖母を抱きしめた。体の震えが伝わってきた。

 その後も声は聞こえていたが昼間の疲れもあり、結局朝まで眠ってしまった。

チョコ太郎

 翌朝、出発を旅館の前で待っていると通りかかった中年の女性が近づいて来て言った。

 「この旅館が気になるかい?ここが建つ前、古い宿だったんだけどいろいろあってね…しばらく廃屋になっていたんだよ。でもお湯が出るだろ?だからよそから来たご主人が新しく旅館を始めたんだけど、やっぱり良くないことが止まらなくてね。お嬢ちゃん、泊まっちゃだめだよ」

 そう言うと女性は足早に立ち去った。

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