福岡発! 目指すは本屋のサグラダ・ファミリア ?!

 福岡市中央区・六本松にオープンした新刊と古本の本屋「BOOKSHOP 本と羊(以下、本と羊)」は、本の販売だけでなく、ギャラリー棚の設置や一棚店主など、本屋を通して人と人がつながる様々な仕組みを仕掛けています。今回はライターの山内 亜紀子さんが、店主の神田さんに、オープンまでの経緯とこれからの本屋について話を伺いました。
この記事の目次
フクリパ

本屋になるための予行練習ではじめた東京・月島での週末本屋

――大分県臼杵市出身の神田さんは、高校卒業後上京し、東京のデザイン専門学校へ。卒業後、日本デザインセンターへ入社。10年勤務した後に数社のデザイン会社に勤務。半年間夫婦でフランス・パリに滞在、その後会社生活に戻り2018年9月に退社。本屋開業のために動き出します。

フクリパ

神田
元々、大分から上京した時に、60歳までには九州に帰ろうと思っていたんです。本屋をやりたいと思ったのは、家にある僕ら夫婦の本棚を見ていて“これだけ本があるんだったら、本屋が出来そうだな”と思ったのが単純な理由です(笑)。

たまたま東京の家の近所にガラス張りになっている友達の撮影スタジオがあったんですが、ここで試験的に本屋をやってみようと思い、2019年4月に週末だけ借りて本屋をやることになりました。ダンボール2箱分ぐらいの本を台車に載せて運び入れ、テーブルに広げ、ディスプレイして、 “本屋を開店するための予行演習”をしていました。

まずTwitterを始めて、少しずつフォロワーが増えていきコミュニケーションも生まれました。週末本屋に本当にお客さんが来るのか不安でしたが、Twitterを見てくれた方たちが徐々に来るようになりましたね。本好きというより“本屋好き”の方が来てくれましたね。

本だけを並べていても面白くないので、展示用にTwitterでショートエッセイを募ったんです。40作品ほどエッセイが集まりました。全国から様々な方に投稿いただきました。当初300字ぐらいの予定だったのですが、3,500字ぐらいのものが送られてきたりして(笑)。中には展示している自分の作品を見にくる方もいて楽しかったです。

東京・月島の裏通りでひっそりオープンした週末本屋も4ヶ月でテスト期間は終了。接客するってこういうことなんだなと思いました。会話を通して、コミュニケーションをとりながら本を売る、ということを経験できた週末本屋でした。

福岡市中央区・六本松を開業場所に選んだ理由

――神田さんは、試験的に週末本屋をやっていた2019年5月に、福岡県の糸島、福津、宗像、小倉と福岡市内だけでなく色々なエリアを見てまわったそうです。その上でやはり福岡市内がいいと感じ、実際に住んでみて街の雰囲気を感じるため、2019年9月に3週間ウィークリーマンションを借りて生活します。

フクリパ:グラフィックデザイナー&「BOOKSHOP 本と羊」店主 神田裕さん

神田
「僕は九州人ではあるけど大分出身で福岡をよく知らないので、実際に福岡市内のマンションに住んで、本屋さん巡りや街の生活感を感じることにしました。福岡市出身の妻より西鉄バスを使いこなせるようになって(笑)、その上でやっぱりここでやりたいよなと思ったんです。

六本松を選んだのは、物件探しをお願いしていた不動産会社の方が本屋をやるなら六本松がいいとおすすめしてくれたからです。リサーチ力がユニークですごかったんですよ。

福岡市内はバーはつぶれにくいけど焼鳥屋は入れ替わりが激しいエリアとか、アパレルに強いのは平尾・白金エリアとか。僕が当初希望していた白金エリアも、“昼間は人があまりいないから本屋は難しい、以前あった本屋も閉店した云々”と情報が詳細で信頼できる方だったんです。

昨年の2月に単身移住して来て、当時は時期的にもコロナ禍の少し前だったので福岡市内に出店希望のために探している人も多く、すぐには見つからないかもと言われていたんです。ところが移住1週間後に六本松に物件が出たよと言われて内覧したのがこの場所だったんです。

ひと目見てここはいいなと思いました。通りを見て、人が流れているのがわかったし間取りもシンプルで、隣が飲食店なのもよかった。

六本松は数年後に地下鉄七隈線が博多駅までつながり、すぐそばの、古くから高台の閑静な住宅地として知られる輝国 (てるくに)というエリアには、大規模マンションが出来るなど、多くの人が流入して来る、将来性があるエリアだと教えていただきました。」

多くの方々に助けられてオープンした「本と羊」

――六本松のこの場所に本屋をオープンさせることを決め、昨年4月から工事が始まり、自分達で壁を塗ったり棚をつけたりして店としての箱ができたのが7月だったそうです。ただ、ちょうど梅雨の時期とかぶってしまって、店の棚に入れる本の搬送がなかなか進まなかったのだとか。

フクリパ:9坪のスペースに神田さんご夫婦が選んだ本が並ぶ

神田
「7月に入ってやっと自宅にある本を運び入れることが出来、準備の間は“いつ開くんですか?”と店の前を通る人たちに言われ続けたので、積み上げてある本に値をつけてちょっとずつ売ったりしていました(笑)。この頃は大々的にオープンというよりこっそり、なんとなく開けようと思っていたんです。

開店準備も1人で作業するのが厳しいと思い、仕分けをしたり値付けするボランティアをSNSで募集しました。すると毎日5、6人来てくれて延べ20人ぐらいがオープンまで入れ代わり立ち代わり手伝いにきてくれました。

日にちを決めて開店するつもりはなかったけれど、“本当にいつ開くんだ?”といろいろな人に聞かれすぎて、オープン日を8月30日と決めて開店しました。キャッチコピーは“サグラダ・ファミリアの本屋”いつまでたっても未完成ってことです(笑)。

オープンの日は5時間で70人ぐらいのお客様が来てくれて、開店前には行列が出来ました。待ってもらっている間に白ワインを振る舞ったりしたんですが、僕が一人でやっているので知り合いのカメラマンさんや準備を手伝ってくれた方々が待っている方たちをお世話してくれていました。六本松エリアの皆さんがオープンを心待ちにしていてくれたんだと嬉しかったです。」

本屋のギャラリー棚、一棚店主とは?

――「本と羊」には作品の展示ができる“ギャラリー棚”や本棚のひとつを借りて小さな本屋の店主になる“一棚店主”などユニークな企画があります。一棚店主の皆さんの思い思いのテーマで本が並べられ、新刊も古本も一緒に置かれそれぞれの本屋さんのキャラやテーマを楽しむことができます。

フクリパ:作品展示ができるギャラリー棚

神田
「本屋で何かを展示するというのは、他の本屋などでも珍しいことではないんですよ。作品展示や、店内のスペースレンタル、そして珈琲やビールを提供すること。そして店主の無駄話がついてきます(笑)でも基本は本屋です。

“本屋の中に本屋をつくる”一棚店主は、僕(店)の個性の中に他人の個性が入ってくるので面白いと思います。棚の店主には“棚に人格を持たせて下さい”と言っています。ただ置いてあるだけだとお客さんは買いません。福岡市内で一棚店主を集っている本屋さんはまだないようですが、増えるといいですね。」

フクリパ:小さな本屋さんの店主になれる「一棚本屋」

「 “本と羊”の特徴は、店にきてくれた人と話してコミュニケーションをとること。こういう小さい本屋は店主を好きになってくれないとなかなか本は売れないかなと思っています。

お会計の時に話かけますが、話しかけられたくない方もいらっしゃるので臨機応変に対応しています。もちろんお客さんから話しかけてくれた時には話すようにしています。話がはずんで、4時間いた方も(笑)。

読書会やワークショップ用に場所貸しもしているので、この場所をもっとみんなが使ってくれるといいなと思います。本屋を“屋”じゃなく“場”にしないといけないんです。今後は時期をみて角打ちナイトをやりたいですね。本屋で本の話をしながらお酒を飲みながらコミュニケーションをとりたいですね。

場所が人と人をつなぐという言い方は、本当はおこがましいと思っています。自然発生的に生まれるものがコミュニケーションであって、僕は場所を提供しているけれど、何が生まれるかはもっと能動的なことだと思います。お客さん同士が本屋という場所で化学反応を起こしてほしいですね。」

新しい本屋のカタチ、これからの本屋

――“お客さん同士が色々な化学反応を起こしてくれて僕が考えていないような場所になって欲しい”と話す神田さんですが、六本松に開いた小さな本屋「本と羊」をオープンさせて半年、神田さんが考える本屋の新しいカタチとは?

フクリパ:店主の神田さんと副店主の奥様の美樹さん

神田
「本(屋)離れと良く言われますが、本(屋)場慣れしてほしいです。本のある場所に慣れてもらいたいですね。本を買うことも大事だけれど、文化を発信していく場でもあると思っているので、文化の種をまいて、耕していけるような場所になるといいなと思っています。

僕はあまり本をおすすめしないんです。自分の力で本を選べないといけないと思っています。本を選ぶには、体感力みたいなものが必要で、右脳と左脳を両方使って自分が読みたい本を自分で選び取ることがとても大事だと思います。

そして、もっと六本松に本のイベントが増えたり本屋が増えることが目標です。六本松を神保町のようにすることが理想かもしれません。東京から来た方たちが“ネオ神保町みたい”と思うような場所になってくれると最高ですね。

10年後は電子書籍がもっと増えているかもしれないけど、紙はなくならないと思っています。電子書籍では味わえないものがあるから、ずっと残っていくと思います。福岡に多くの“本のイベント”が増えるといいですね。」

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福岡市内はもちろん、糸島から小倉までその土地を調べ、3週間その街に住んでその街を知ることから始めた神田さん。

本屋に並ぶたくさんの本の中から、自分の力で一冊を選ぶ力が大事という言葉と、本屋を“屋”ではなく“場”にしたいという言葉が印象的でした。

神田さんは、コミュニティは自然発生するものだともいいます。「本と羊」という本の場で、これからも新しいコミュニティが生まれることを楽しみにしています。



文=山内 亜紀子

フクリパ

神田裕(カンダヒロシ)

大分県臼杵市出身・アートディレクター/グラフィックデザイナー 本屋の主人
臼杵市内の高校卒業後、1983年 東京デザイナー学院東京校 商業デザイン科入学。1985年4月日本デザインセンターに入社し、10年間勤務の後、数社のデザイン会社に勤務。1999年〜2000年にかけて半年間、夫婦でフランスパリに滞在。その後 広告代理店勤務等を経て、2018年9月に退社。本屋開業のための活動開始。2019年4月〜7月東京都中央区月島にて週末だけの試験営業を行う。2019年11月福岡市内の本のイベント「ブックオカ」のきさき古本市に初参加2020年2月に福岡へ単身移住。2020年8月30日に六本松四丁目に9坪の小さい本屋&デザイン事務所「BOOKSHOP 本と羊 & FARMFIRM DESIGN」を開店

フクリパ

【BOOKSHOP 本と羊】

TEL: 092-406-7483
住: 福岡市中央区六本松4-4-12 エステートモア六本松Ⅱ102B
営: 平日13:00〜19:00/土日12:00〜18:00
休: 月・火 

※掲載されている情報は、2021年04月時点の情報です。プラン内容や価格など、情報が変更される可能性がありますので、必ず事前にお調べください。
2019年10月1日からの消費税増税に伴い、表記価格が実際と異なる場合がありますので、そちらも併せて事前にお調べください。

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